今回、岡山で開催された糖尿病学会総会で紹介のあった論文を一つお知らせします。
この論文は順天堂大学医学部のサイトにも詳しく日本語で載っていますので、ぜひ後ほどご参照ください。
日本では高齢化が進み、サルコペニア(加齢による骨格筋量や筋力の低下)は要介護リスクを高める大きな問題になっています。とくに糖尿病を持つ人は筋肉量が減りやすく、サルコペニアを合併すると健康寿命にも悪影響があります。そこで本研究では、
**思春期(中学・高校)**の運動習慣
**高齢期(65~84歳)**の運動習慣
という二つの時期の運動習慣の組み合わせが、高齢期のサルコペニアリスクにどう影響するかを調べました
対象集団
東京都文京区在住の65~84歳の地域在住高齢者1,607名(男性679名、女性928名)を解析対象としました。全員について、骨格筋量(DXA)、握力、歩行速度などのデータを取得しています
思春期運動習慣:中学・高校時代に部活動などで運動をしていたかを聞き、「していた」と答えた人を思春期運動習慣ありとしました。
高齢期運動習慣:週2回以上、1回30分以上の運動を継続しているかを確認し、「している」と答えた人を高齢期運動習慣ありとしました。
これらの基準で対象者を以下の4つのグループに分けました。
NN群(None–None):思春期・高齢期とも運動習慣なし
AN群(Active–None):思春期のみ運動習慣あり、高齢期にはなし
NA群(None–Active):思春期には運動習慣なし、高齢期のみ運動習慣あり
AA群(Active–Active):思春期・高齢期の両方で運動習慣あり
AWGS 2019改訂版に基づき、
低筋肉量:男性SMI < 7.0 kg/m²、女性SMI < 5.4 kg/m²
低筋力:男性握力 < 28.0 kg、女性握力 < 18.0 kg
低身体機能:男性最大歩行速度 < 1.46 m/s、女性 < 1.36 m/s
低筋肉量かつ(低握力または低歩行速度)がある場合を「サルコペニア」と定義しています
年齢・BMI・喫煙歴・教育年数・たんぱく質摂取量・糖尿病既往・循環器疾患既往・骨粗鬆症既往などを補正した多変量ロジスティック回帰分析を行い、各グループのサルコペニア・低筋肉量・低身体機能のオッズ比(OR)をNN群と比較しました。
モデル3では年齢、BMI、喫煙歴、教育年数、たんぱく質摂取量、糖尿病、循環器疾患、骨粗鬆症を補正しています。
モデル4ではさらに思春期から中年期(20代~50代)の運動習慣スコアを追加で補正しています
男性(N=679)の結果
サルコペニア有病率は6.6%(45/679)。
低筋肉量は14.3%、低身体機能は25.6%。
**AA群(思春期・高齢期ともに運動習慣あり)**では、NN群に比べてサルコペニアリスクが有意に低下していました(モデル3でOR=0.29、P=0.044)
女性(N=928)の結果
サルコペニア有病率は1.7%(16/928)。
低筋肉量は5.2%、低身体機能は19.6%。
サルコペニアそのもののORには有意差は見られなかったものの、低身体機能に注目すると、AA群でリスクが有意に低下していました(モデル3でOR=0.48、P=0.010)
モデル4(中年期の運動習慣を追加補正)でも同様の傾向
男女ともAA群でリスク低下が持続し、「思春期と高齢期の両方で運動習慣を持ち続けること」がサルコペニア予防に寄与する結果となりました。
思春期だけ・高齢期だけでは十分ではない
AN群(思春期のみ)では、高齢期に運動習慣がなければサルコペニア予防効果は限られていました。
NA群(高齢期のみ)でも一定の傾向はありましたが、AA群ほど強力ではありませんでした。
「今からでも遅くない」
中学・高校時代に運動していなかった人でも、高齢期から運動を始めて継続することでサルコペニアリスクを軽減できる可能性があります。
まさに「人は今が一番若い」。今日からでも身体活動を始める価値があります。
女性のサルコペニア有病率の低さ
本研究では女性のサルコペニア有病率が1.7%と低く、全体解析で有意差を検出するのは難しかったかもしれません。
しかし筋力・身体機能(低身体機能)についてはAA群で明確な予防効果が示されており、生活の質向上において大きな意味があると考えられます
臨床への応用:糖尿病を持つ方にとっての意義
糖尿病を持つ方は筋肉量低下が起こりやすく、サルコペニアを併発すると予後不良リスクが高まります。
LaTAKEでは鍛錬マシンを用いた個別の筋力トレーニングプログラムを提供しており、高齢期からでも運動習慣を獲得・継続することでサルコペニア予防につながります。
中高時代に運動経験がなかった人でも、LaTAKEで今日から筋トレを始めることで、将来の筋肉量・筋機能の低下を抑えられるといいなと思っています。
「データで示されたサルコペニア予防のポイントは、生涯を通じた運動習慣の継続にある」
思春期と高齢期の両方で運動習慣を持つ人ほど、サルコペニア・低身体機能リスクが有意に低いという結果でした。
「思春期に運動していなかったとしても、今からでも遅くない」
今日がいちばん若い日です。今日から身体活動を始めれば、サルコペニアリスクを軽減し、健康寿命を延ばす一歩になります。
「筋肉量を落とさないために、LaTAKEの筋トレを活用してみませんか?」
LaTAKEでは、当院の監修のもと、鍛錬マシンを使った安全かつ効果的な筋力トレーニングを行っています。
特に糖尿病を持つ方にとって、食事療法だけでなく運動療法も欠かせません。LaTAKEで運動習慣を始め、サルコペニアを予防して要介護リスクを抑えましょう。
本論文の詳しい日本語要約は順天堂大学医学部のサイトに掲載されています。気になる方はぜひご覧ください。
Tabata, H. ほか. Effects of exercise habits in adolescence and older age on sarcopenia risk in older adults: the Bunkyo Health Study. J Cachexia Sarcopenia Muscle 14, 1299–1311 (2023).